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『ナチュラル ウーマン』ありのままで私らしく、強く生きる。...

『ナチュラル ウーマン』ありのままで私らしく、強く生きる。

みなさま本日もご来場ありがとうございます。
此度の上映作品は『ナチュラル ウーマン(Una Mujer Fantastica)』という、チリのサンティアゴを舞台にした映画で、第90回のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した作品です。

恋人を亡くしたトランスジェンダーの主人公の生きる道と、彼女の”強さ”を描く物語。原題を直訳すると『素晴らしき女性』となります。この作品はまさにその名の通り、強く美しく、素晴らしき女性マリーナのお話。ごゆっくりとお楽しみください。


私らしく、私を生きる。

ナチュラル ウーマン

邦題のナチュラルウーマンというのは、劇中のワンシーンにだけ登場する名曲からきています。

圧倒的な歌声で“レディソウル”と呼ばれた歌手、アレサ・フランクリンが1967年に発表した『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』という曲です。「あなたがいれば、私はありのままでいられる」という、女性からパートナーへの想いがストレートに表現されています。

本作はこの楽曲にある想いがしっかりと、ストーリーをもって美しく映像表現された作品なのです。

「お前のせいだ」

“カップル”

『ナチュラル ウーマン』の主人公マリーナは、レストランでのウェイターの仕事とクラブでのシンガーの仕事を掛け持っていて、そんな日々を恋人のオルランドと穏やかに過ごしていました。

恋人のオルランドはテキスタイルの会社を経営している男性で、マリーナへの愛情がたしかに伝わってくるような暖かい眼差しと優しい表情が印象的です。

しかしながらマリーナの誕生日を祝ったその夜、オルランドは突如として亡くなってしまうんです。さらに驚くべきことに、その死の原因はマリーナにあるのでは?という疑いの目をかけられてしまいます。その刺すような冷たい視線を送るのは、オルランドの家族たちと、警察です。

オルランドの元妻ソニアは、マリーナとの交際を「異常な趣味」だと言い、さらには「葬式に来る権利はないわ」とまで言いつけます。息子のブルーノに至っては罵詈雑言を浴びせるだけでなく、仲間とともにマリーナに暴行を加える始末。

マリーナを訪ねてきた女性警察官はなんと、「オルランドが死んだのは、彼の性的暴行にマリーナが抵抗したから」というニュアンスを詰め込んで彼女に質問を投げかける。

誰もが”男性から女性になった”というマリーナの歴史を理由にして、オルランドの死を「お前のせいだ」と言わんばかりの態度を示すんです。

しかしそんな中でも、マリーナの想いはただひとつ。

”愛していた彼に、最期にもう一度会ってさよならを言いたい”

それだけです。彼女は折れそうになりながらも、その想いを胸に、向かい風の中を突き進みます。

“向かい風”

“マリーナ”という人

“女性”

さて、このマリーナという女性を演じたのはダニエラ・ヴェガという女優なのですが、『ナチュラル ウーマン』という映画はほとんど、ダニエラ・ヴェガが演じるために生まれたと言っていいです。この人が演じるしかない、演じる運命にあった人なんです。

というのも、『ナチュラル ウーマン』を監督したセバスティアン・レリオは、本作の舞台となったチリのサンティアゴで、トランスジェンダーを取り巻く環境を調べていました。その過程で、美容師として働いていたダニエラ・ヴェガに出会います。そして作品をつくるため相談するうち、徐々に彼女の人生経験が脚本に反映されていったのだそうです。

“表彰”

そうして「この役を演じられる女優は目の前にいる」と感じたレリオ監督は、彼女を主演に迎え、作品を創り上げていったわけですね。

その結果、『ナチュラル ウーマン』はチリ国内で熱狂的に受け入れられただけでなく、世界中で評価されたのですが、実はここに、運命としか表現できない、ある『結びつき』が存在しています。

歴史との運命的な結びつき

“チリの闘い”

チリは1973年に、『暴力によって、民衆の想いと望んだ未来が打ち砕かれる』という歴史を経験しています。セバスティアン・レリオ監督が生まれたのは、その翌年。暴力の記憶が刻まれていく移行期である、1974年です。

そして17年の時を経て、チリは『民衆の想いを、暴力に訴えることなく取り戻した』という歴史を刻みます。それは1989年のことで、ダニエラ・ヴェガはその翌年、暴力の記憶からの移行期である1990年に生まれています。

チリという国でジェンダーに関する正式な議論がはじまったのは、つい最近のことです(https://jp.globalvoices.org/2017/08/23/46225/)。

そしてジェンダー・アイデンティティー法案が上院に提出されたのは2017年。
ジェンダーというものへの社会全体の価値観が移行していくときに、この『ナチュラル ウーマン』という作品は生まれたんです。

国全体の移行の中で生まれたふたりの人間が、芸術を通して新たな国全体の移行を生む。

この作品がチリという国で生まれたことには、非常に大きな意味があるように感じられます。
事実は小説よりも奇なりという言葉がふさわしい、運命的な結びつきですね。

ダニエラ・ヴェガが伝える、人生に大切なこと

“女性”

ここまで移行という表現を何度も使いましたが、これはダニエラ・ヴェガが各局のメディアで発したメッセージに起因しています。『ナチュラル ウーマン』の作品同様、すべての人の人生を賛美する素晴らしい言葉です。

「どの身体も、移行します。私は性別という意味での移行も行いましたが、そうでない人は加齢で移行していきます。移行する自分を好きになって、愛して、最も威厳ある形で自分自身を尊重してください」

そしてダニエラ・ヴェガには、この言葉を裏付ける彼女の人生のポリシーが、3つあります。

反逆性、抵抗、そして愛

彼女は、独学と個人レッスンを受けることで歌手になっています。いわゆる正しい道順などを行くことなく、歌手という道に入ったんです。正攻法がダメなら、違う方法を試す、ということなんです。

またこの映画で描かれているように、彼女の人生には強い向かい風が吹いていたこともありました。しかし「私も同じ人間でしょう」と抵抗し、突き進んだ。

そのために、何においても、移行していく自分自身を愛して、大切にしたんです。

考えてみれば至極当然なことですが、時間が流れていくばかりであるように、人も移行していくことしかできません。
人の集まりである社会も、きっとそうです。

だからこそまずは、ひとりひとりが、自分の移行を愛していけるようになることから始めていくべきなのでしょう。そうやって少しずつ、生きやすい良い社会へ移行していくんです。チリという国がそうなろうとしているように。

『ナチュラル ウーマン』は、すべての人への人生賛歌です。

この作品をつくった人たちから、あなたに必要な勇気を受け取ってみてはいかがでしょうか?

それではまた、次回の上映時間にお会いしましょう。


普段はネットの服屋さんでスタイリングとカメラマンをしています。写真と映画が大好きです。バックトゥザ・フューチャーを観て「為せば成る」が座右の銘になり、何事もやってみるマンに変身を遂げたイギリスと大阪の血を引く25歳です。

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